注)リスニング用も含めてレコードを再生するものを「レコードプレーヤー」、その中でもDJに特化したものを、「ターンテーブル」(または、略して「タンテ」)と、このサイトでは表現します。
レコードプレーヤーの基本構造
レコードプレーヤーの構造要素は、レコードを載せる「プラッター」(お皿、ターンテーブルとも言う)と、それを回転させるモーターと制御回路を含む「駆動系」、レコード盤溝をトレースして音を電気信号に変える「カートリッジ針」(単にカートリッジとも言う)、カートリッジを移動させる「トーンアーム」、
カートリッジとトーンアームを接合させる「ヘッドシェル」、各パーツを固定するボディーとハウリングを防ぐインシュレーターを含む「筐体」の6つに大別できる。

「プラッター」
プラッターの上面の平面精度、中央の軸穴のテーパーを付けた加工精度、真円と軸の中心位置精度、側面のダイヤモンドカットの位置の精度など、極めて難しい機械加工精度が求められる。
DJ用は瞬時のスピード制御が必要な為、軽いアルミのダイキャストで作られ、精度を出すところは後加工で仕上げられる。
真円は、旋盤で回転させれば、簡単に出来るのは想像できると思うが、中央軸の中心線と上面平面が正確に垂直になっていなければならない、また、中央の軸穴は、回転軸のテーパーにピッタリ合わせないと、がたつきの原因になる。ここは、物凄い精度が必要。プラッターが軸から外れないという経験がある人は多いと思うが、それは、軸とプラッター軸穴の寸法がピッタリ合っているからである、真空状態と同じなので、かなりの力でしかも垂直に引き上げないとまず取れないのが普通。切削工学を学んだことがある人ならば分かると思うが、切削バイトを品物に当てる行為そのものが、品物に力を与え多少なりとも歪ませている。バイトを当てる角度・切削速度・送り速度・経済性を考えた機械加工技術を要する。日本では、かなり精度の高いものは出来るが、とても高価なものになってしまい、多くの人が、使いやすい機材を使えないことになってしまうので、この手の部品は、ある程度加工技術がありコストが抑えられる韓国で製造されることが多い。
軸側に取り付けられたテーパーリングに関しても、かなりのノウハウがある。正確に加工されたリングを、圧入(むりやり押し込んで入れる)し、仕上がり精度を出さなければならない。これは日本でないと無理と思われる。
注意)レコードプレーヤーの側面下のラインが回転中に、揺れているように見えたとしても、それは、仕方が無い。上面の精度を出す為に、それを優先している。もし、それも真直ぐにしようとすると、その加工により歪が出て、上面の精度に影響が出てしまう。どちらを優先するかということになる。もちろん、上面の加工による歪も考え、最初に側面ラインを揃えればいいのだが、そこまでの腕の職人の起用と管理体制を工場にしいたとき、膨大なコストがかかる。テク二クスのSL-1200シリーズは、それらも考慮したうえで、プラッターの側面下のラインが筐体に隠れて見えないように工夫している。実際には音とは関係ないが、不安を与えないように工夫をしているのである。一方、ベスタクスは、DJ用に企画されたものなので、側面を指先でタッチしてプラッターコントロールし易いように、プラッターが筐体に隠れていないので、それが目立つことがある。製品企画の考え方の違いである。
「駆動系」
レコードプレーヤーの駆動系は、大きく分けて3種類ある。ダイレクトドライブ方式と、ベルトドライブ方式、リムドライブ方式である。
ダイレクトドライブは、モーターの性能が直接的に音質となる。モーター軸とプラッターの軸が同じだからである。昔のダイレクトドライブはスタートしてから定速回転までに時間が長かったが、現在は、とても早い。スターティングトルクと呼ばれる性能である。このモーターは、世界的に日本の技術がトップレベルにある。
DJ用ターンテーブルは、ダイレクトドライブで無いとプレイできないことを覚えておこう。キューイングやスクラッチプレイ時、プラッターの回転に若干影響がでても、トルクが強い為、すぐに定速になる。DJに限らず、業務用レコードプレーヤーは、このドライブ方式のものが使われている。また、モーターは、交流で回転させるACドライブと、直流で回転させるDCドライブがある。ACドライブは、一定速度を保ち続ける性能が高く、DCドライブは、急なスピードコントロールの追従性がよろしい。テクニクス、ベスタクスともに、DCドライブ。ただし、ベスタクスのカッティングマシンは、回転速度安定度の高いACドライブ、リスニング用のGUBER(グーバー)CM-01もACドライブを採用している。

ベルトドライブ方式は、リスニング用のレコードプレーヤーに多く採用されている。小型軽量化、製造コスト面に優れている。キューイングやスクラッチをしないので、早い定速性能は、必要ない。ベスタクスの「handy trax」や、「BDT-2600」などがそれにあたる。
超高級ハイファイオーディオは、重いプラッターの回転モーメントの安定を利用して、回転精度を出している。ただし、安定するまで時間がかかる。
ゴムベルトは消耗品なので、ベルトドライブ式を購入するときは、ゴムベルトのパーツ供給があるかどうか確認した方がよい。
リムドライブ方式は、リムと呼ばれるゴムタイヤが、モーター軸の回転をプラッターに伝える方式。機械的遊びが回転精度を悪くする方式で、消耗品であるリムも、ゴムベルトより高いし、交換作業や調整が面倒。機械加工精度が上がり、また、モーターの性能が上がった今となっては、全く利点が無い方式のため、現在ではほとんど無い。
DJ用のターンテーブルは、ダイレクトドライブで、その制御回路は、アナログ式と、デジタル式がある。テクニクスは前者で、ベスタクスのPDXシリーズは、デジタルサーボである。特に追従性が要求されるパフォーマンス系DJに、ベスタクスが人気があるのは、それも一つの理由である。
「トーンアーム」
トーンアームにも多くの技術的ノウハウがある。振動をピックアップする針をスムースに移動させなければならず、また、機械的ガタがあると、音質に悪影響をおよぼす。構造は、なるべくシンプルな方が音には良いので、付いているのは針圧調節と高さ調整のみで、アームリフトレバーや、アームレストは、トーンアームについていない方がよい。オートリターン機能なんて持っての他。精密機械技術を要する部品である。
DJタンテの針圧をかける方式には、ダイナミックバランス方式とスタティックバランス方式がある。重力を利用して、カウンターウエイトの位置を調整することで針圧をかけるのが一般的で、スタティックバランス方式。ベスタクスPDX-2000mk2や、テクニクスSL-1200シリーズがそれにあたる。
スタティックバランスの場合、重力を利用するために、レコードが反っていたり、激しいキューイングやスクラッチでトーンアームが水平でなくなった時、左図の下のように、(分かり易く極端に表現していますが)レコード盤面水平面に対して、重力が分力で、GからXに少なくなる。常に一定の針圧にならないということである。
一方、ダイナミックバランス方式は、ばねの力を利用して、トーンアームの角度に関係なく常に一定の針圧になる。ダイナミックバランス方式のベスタクスQFOなどが、レコードと針が吸い付いているような感覚はそのせいである。しかし、デメリットもあり、ばねは消耗品とも言えるので、メンテナンスが必要となる。
その他の方式として、小さな滑車に小さな分銅をテグスでぶら下げる方式もあり、これだと、ダイナミックバランスと同じ効果で、しかも、メンテも楽。だが、移動中に、分銅が外れて紛失する危険性もある。生産完了となったが、ベスタクスのPDT-6000やPDT-8000がその仕様であった。
カウンターウエイトの重心を支点より下の位置にするTH(トレースホールド)方式という、針が溝をしっかりトレースする構造があります。
右図の左が通常の絵、右がTH方式。カウンターウエイトの位置が、支点より下になっているのがわかる。支点に対して棒の両側先端におもりがついているやじろべいを思い浮かべて欲しい。それぞれの下は、そのイメージ。右のやじろべいの方が、安定していて、回復力が強いのが感覚的に分かると思う。この方式を取り入れているのは、ベスタクスのPDXシリーズ。
DJターンテーブルトーンアームには、S字アームとASTSがある。S字アームは、針先がレコード溝を、進行方向になるべく真直ぐにトレースするように考えられたシステムである。一方、ASTSは、ハイファイオーディオのストレートアームのように見えるがそれとは意味が異なり、逆回転をさせたり、キューイングやスクラッチをするDJの使われ方による針飛び防止策として開発された方式である。
ASTSの詳しい説明はこちら
S字アームは、激しいキューイングやスクラッチプレイをしないスタイルに適している。また、ASTSに比べて、アームが長いので、針を置こうとするレコード盤面の位置に、狙い通りに素早く置きやすいというメリットもある。ASTS、S字アームそれぞれに、いいところがある。
S字アームの原型は、Jアームである。Jアームの場合、針側からトーンアームを見たとき、左方向に、トンアームそのものが回転する力が発生し、反対側にバランスを取る為の分銅が必要となる。そこで、そのバランスを取る為の分銅を付けなくても、トーンアームのパイプそのものの形を工夫し、パイプ自重そのものでバランスを取るようにしたのがS字アームである。機械加工技術の発達により、正確なパイプの曲げ加工が可能になったから実現した。

CDを生んだ技術進歩の影には胸が熱くなる人間のドラマがある。けど、それがサウンドそのものにそれ程伝わってこないのが、なんだか寂しい。その点、アナログレコードは、完成までにたずさわった多くの人間の熱い気持ちが、グルーブ(溝)に音玉となって刻まれているのが、ハートで聴こえる。同感ならば、そう!君も立派なVINYL派!
